ストーリー


連絡

ここは劇団のレッスン場。
公演が間近に迫って、厳しいレッスンが続いていました。

「ワン・ツー・スリー・フォー!」
♪風の背中に乗って飛び立とう・・・
♪広い世界を眺めてみたい。
♪青く白い空の彼方に輝く世界がほら広がっている。
♪きっと何かが待っているはずさ。
♪僕らはずむ心押え切れない。
♪虹がかかる空の向こうは誰も知らないユートピアなのさ。
♪きっと何かが待っているはずさ。
♪さぁ行こう素敵な僕たちの冒険。
先生がレッスンを止めて言いました。
「はーい!OK!公演までもう少し。みんな!もっと気を引き締めて。」
「はーい!」
「ヒカルさん、足先、伸びてないわよ。」
ヒカルはちょっと不満そうに
「はーい、先生。」
生真面目なマリコがヒカルを注意しました。
「ヒカル返事は短く。」
「はい!先生!」
先生はうなずきながら
「それから、ノリカさん。あなたちょっと体ひねり過ぎ。」
ノリカは体をクネクネさせて
「え?こうでか?こうですか?」
「ノリカ。フェロモンバリバリ!」
「うるさいわね!」
「ははははは!」
先生は手をたたいて
「いい、今度の公演は私たちの劇団にとって、記念すべき10周年記念なの。見に来て下さるお客様の為にも、これ以上出来ないくらいの努力をもって舞台に立つこと、いいわね。あなたたち一人一人の笑顔で、お客様を幸せな気持ちにして上げてちょうだい。」
「あぁー、先生!あのー、リョウコの耳がきのうから見つからないの。」
マネージャーの池畑がメモを取る手を止めてリョウコに言いました。
「あっ、それなら二階のスタジオの隅に落ちていたから、しまっています。」
「えっ?」
「三階更衣室のロッカー、右から8列目の下から三番目。」
「あはっ、池畑マネージャー、どうもありがとございます。」
池畑は不満そうに言いました。
「もう、しょうがないわねぇ、いつもいつも。皆さん、本番前後、本番中は整理整頓!私物、貴重品は自主管理!これ、お約束。たのむわよ。さっ!レッスンレッスン!」
「亮子の耳あった!」
「あなた!これは本番用でしょ!何やってんの!」
「ごめんなさーい。」
レッスンを再開して、しばらくすると、突然、電話のベルが鳴り響きました。
池畑はあわてて電話に駆け寄り、受話器を取りました。
「はい、もしもし。はい、そうです。 少々お待ち下さい。先生!お電話です。」
「ありがとう。じゃ、池畑君、ちょっとレッスン見てあげてちょうだい。」
「えっ?私がですか?わかりました!先生!」
レッスンを任された池畑は思わず上着をぬいで、気合いを入れました。
「もしもし、松任谷です。お待たせしました。あっ、あなた・・・えっ!お母様が倒れた!?それで、具合は?そう、札幌中央病院ね。えっ?付き添い? 私?私が?ねぇ、正隆さん、弟の二郎さんは?三郎さんだって!奥さんたちは?みんなダメなの?そんな! ええ、公演は5日後よ。・・・はい、分ったわ、私が行きます。」
先生は受話器を置くと、立ちすくんでしまいました。


それぞれの想い

しかし、すぐに我にかえり
「池畑君、ちょっと。」
「はい、先生。」
先生は小声で池畑に話しました。
「実はね、今から札幌に行かなきゃいけないの。」
「えっ!?」
「それで、一時間後に発つから札幌行きの飛行機のチケット、買っといてよ。それからタクシーの手配、急いでお願いね。頼んだわよ、お願いね。」
「先生・・・?先生!今から一時間後って・・・。とにかく電話しなきゃ。」
池畑はあわてて受話器を取り
「もしもし、はい、札幌行きの飛行機の・・・、はい、一台至急、はい、いや飛行機一台じゃなくチケットです。はい、はい、お願いします。」
かなり慌てています
「あっ、タクシー。 もしもし、はい、タクシーのチケットを・・・、えっ?回数チケット?回数チケットじゃなくて、一台廻してほしいんです。えーっと、今から一時間後です。お願いします。」
池畑は相当慌てています。
「もうすぐ公演だっていうのに、どうしましょう!」
池畑の慌てぶりに気付いたノリカが興味津々聞きました。
「どうしたの?マネージャー、そんなに慌てて、何かあったんですか?なに?何ですか?」
「あの、落ち着いて聞いてちょうだい。」
「ふんふん。」
団員みんなが聞き耳を立てました。
「先生のお母様が倒れられたの。それで、看病に行かなくちゃいけないの。」
「誰が?先生が?」
「公演、間に・・・合わないかも。」
みんな口々に
「ひっどーい!うっそー!どうなっちゃうの!
ヒカルが怒って言いました。
「ちょっと待ってよ!公演5日前なんだよ!先生がいなくちゃ舞台は出来ないよ。だいたい、どうしてこんな時に病人の看病なんかに行かなきゃいけないのさ!」
「先生の旦那様のお母様でしょ?突然の発作だっていうし、仕方ないんじゃない?」
「でも、実の母親なら息子が看病に行くべきなんじゃないかな。それに、確かあと二人息子さんがいるんでしょう?」
「ちょーっとマリコさーん。先生は確か長男のお嫁さんだよね。先生の旦那様は大会社の管理職。仕事仕事で超忙しくて、無理なんじゃない?」
「あーやだやだ。長男の嫁だとか、妻だからとか、男は仕事だからいいってのかい?先生だって劇団の代表って言う立派な仕事しているじゃないか。」
「でもねー、管理職って何かこうオッシッゴットッって感じだけど、劇団って言ったら、いわゆる、遊んでるーみたい。ホッホッホー。」
みんながノリカを指さして
「それはアンタ!」
「あぁ、私、私は女。女ゆえに人知れず悩んでいるの、誰も分ってくれない、この大きな胸の内。」
みんなはノリカの胸を見て
「大きな胸!」
今度は自分たちの胸を見て
「小さな胸・・・の内。」
「ホッホッホー。」
ノリカは得意気でした。
でも、ノリカには胸が大きいために、幼い頃のつらい想い出があったのです。
「10才を過ぎた頃から、私はクラスで一番大きな胸。」
「いつも胸をかくすようにして歩いていたわ。嫌だった、みんなの視線が。」
「高校三年だったかしら、思いっきり胸を強調した服を着て、堂々と歩いてみたら、男たちの態度がコロッと変わったの。」
「やたら親切、そしてデートのお誘い・・・。」
「一体何なの!? 今じゃ、私も大人になって、うまくやっているけど。本当の私を見てほしいの!」
「胸が大きいとか、色っぽいとか、外見じゃなくて私の中身を見てほしいの!」
ヒカルにも思い出したくない過去がありました。
「私だって小さい頃はピンクのヒラヒラだの花柄のスカートだの着てたんだ。」
「でも、私は、あの日から女を捨てた。 あの日、小学校5年の夏休み・・・プールからの帰り道・・・。」
「女の子やめた歴12年。まわりも自分もすっかり今のヒカルに慣れてしまった。」
「かわいい、なんて言われた日にゃ、ついつい毒突いてしまう。自信が無いんだ。女らしさなんて自分には似合わないって・・・。」
「おい、ヒカル。お前、もしも本当に好きな男性が現われたら、いったいどうするつもりだ?」
一見、能天気なリョウコも未だ叶えられない願いがありました。
「神様、お願い。私にパパを返して!パパ・・・私のパパ・・・。」
「憶えているのは、その大きな手のひらとタバコの匂い、セピア色の想い出。」
「ママは、私たちを見捨てたひどい人、っていつもパパの悪口を言うけど、そんなママみたいな大人にはなりたくない。」
「神様お願い!私にパパを返して!」
「舞台で踊る時、いつも客席を見渡すの。いつかパパが私を見に来てくれる。そう信じているから・・・。」
冷静なマリコにも、心に淋しさを抱えていました。
「母さんは医学部の助教授。」
「母さんの口癖・・・、好きな仕事に打込む女性は不平不満を言ってる暇は無いわ!権利を主張するなら、もっと責任をはたすべき。」
「母さんは素敵。常に前向き。心は希望に満ちて。」
「私も母さんみたいに自分の人生を賭ける仕事がしたいわ。」
「でも、ちょっぴり迷いもある。 家でいつも独りぼっち。母さんの帰りを待ってた私、淋しかった。」
「そんな思いは自分の子供にさせたくない。」
劇団員たちは思わず抱合いました。
池畑も思わず抱合おうとするとヒカルが、
「アンタは男!」
と言って、池畑をはねのけました。

♪ガール ウーマンレディ 嫌だわ
♪いろいろ呼ばれて ただのおばさん
♪ガール ウーマンレディ すばらしい
♪ファッション お化粧 華麗な変身
♪ああ一度だけ 女に生まれたい
♪ばら色のシチュエイション

「男はどんな仕事だってOK。」
「女は重要なホストはお断り。」
「シャット!アウト!」
「重い責任で潰されそう。」
「失敗したら女になって、笑って誤魔化してみたい。」
「ハイ、にっこり。」
「だめか。」

♪だけど女は従うもの?
♪男はいつも操られて
♪女の人生 複雑
♪男の人生 ひどく単純
♪女の生き方 よりどり みどり
♪虹色のバリエイション

「リョウコ、玉の輿に乗るんだもーん!」
「やっぱり女は?」
「ルックス命!」
「紀花!高校の演劇部で上演した太宰治の作品は?」
「太宰治?あーぁ、わかった!走れエロス!」
「なんてかわいい女。」
「ありがとう!」

♪ガール ウーマンレディ 見つめられ
♪輝く その瞳
♪ガール ウーマンレディ 微笑みあふれ
♪世界を幸せに
「だけど女は従うものなの?」
「従う振りをしていればいいのよ。」
ノリカが先生の旦那様のふりをして、
「妻よー!妻よ、お袋が重病なんだ。」
「妻は一杯いる。」
団員の中からリョウコを引っ張りだして、
「妻よ、お袋が重病なんだ。おれは当然だが会社を休めない。」
リョウコも調子に乗って先生のふりをして、
「でも、私だって、今大変な時なの。劇団のみんなが私を必要としているのよ。」
「すまん、分ってくれ。お袋の看病を頼む。」
「あなたがそうしろと言うなら、私、言うとおりにします。」
「えーっ!私たちはどうなるの!?」
みんなが叫びました。
「さあ、妻よ、僕の胸に飛び込んでおいで。」
「胸がじゃまー!」
「ああ、君と結婚してよかった!」
ノリカがリョウコをしっかりと抱きしめると、みんながはやし立てました。
「ワォ!ラブラブー!」
「ノリカ!体ひねり過ぎだってば!」
ノリカとリョウコが離れた隙に、団員たちがいたずらして池畑とノリカを入れ替えました。
「あなた!マサタカさーん!」
それに気付かないリョウコは池畑に抱き付きました。
「ワォ!もっとラブラブ!」
「キャー!」
リョウコは思わず池畑を張り飛ばしました。
♪ガール ウーマンレディ 見つめられ
♪輝く その瞳
♪ガール ウーマンレディ 微笑みあふれ
♪世界を幸せに
♪だけど女は従うものなの?
池畑は女性全員に聞きました。
「もう一度、生まれ変われるなら、女?男?」
「やっぱり。女がいい!」
「お疲れ様でした!マネージャー!」

池畑は女性たちを見送ると、一人ポツンと残されました。
「男、女、か。僕にとってはどっちでもいい。僕には、関係ないこと。」
「僕は僕。 小さい頃から、美しいものが好きだったんだ。母さんの口紅で、こっそり化粧をした。」
「松任谷先生に出会って、舞台が創りだす夢と美しさのとりこになった。舞台は夢。」
池畑は先生の真似をして、
「お客様を幸せな気持ちにして上げてちょうだい。」
「先生・・・僕の大切な人・・・。」

人と人との関わり

そこへ先生がはいってきました。
「池畑君、ここにいたの?探したわ。今から出発するところ。飛行機のチケット取ってくれてありがとう。いつも、助かるわ。」
池畑は先生に詰め寄って言いました。
「先生、公演までの5日間のスケジュールはどうなるんですか?照明、音響、衣裳、メイク、スタッフとの最終チェックは?ゲネプロの指揮は、いったい、誰がとるんですか?」
「池畑君、あなたにも色々と迷惑かけるけど、スタッフには出来るだけ電話やファックスで打ち合せをするつもりよ。」
「公演当日にはテレビ局の取材が入っています。先生への密着取材はいったいどうなるんですか?それから、来賓への御挨拶は? 10周年記念もあって、来賓のお客様はいつもの公演の3倍の人数です。皆さん忙しいスケジュールを調整して、わざわざ会場にお見えになるんですよ。そこに先生がいらっしゃらないのでは・・・。」
「来賓の方々には後日私の方で御挨拶に行きます。」
「お一人お一人にですか?」
「そうよ、一人一人、全員にまわるわ!」
「先生!そこまでして、どうしても行かなくてはいけないのですか?この公演のために一年間準備してきたんですよ。先生、そのために、ろくに睡眠もとらずに必死で・・・みんなの舞台を創るために。」
「もう言わないで!」
「先生は結局、旦那様の言うことに従うのですか?」
「池畑君、従うとか、そんな事ではないの。これは、私の家族の命の問題なのよ。」
池畑は何も言えなくなりました。 先生は池畑の手を握りしめながら。
「じゃ、みんなの事、頼むわね。特にあの子たち、衣裳の管理が悪いから。」
「縫い物なら、お任せ下さい。」
先生が立ち去ろうとすると、池畑は、
「先生待って下さい! 大丈夫でしょうか、公演、先生なしで。今まで、そんな事って一度もなかったから・・・。」
♪舞台が織りなすドラマ ライトのきらめき
♪いつも支えてくれる あなたの眼差し
♪ひとときで消えてしまう舞台に 私はすべてをかける
♪夢を つむいで 愛よ とどけ

「でも、私の夫の母が、今、大変な状態なの。夫に頼まれたわ。ああ、本当はどっちを取っていいか分らない。でも、一つだけ言えることは、私が舞台に注ぐ情熱は彼が支えてくれたものだって事。彼がいるから、私は夢を追いかけられるの。彼が私にしてくれたように、私も彼にして上げたい。」

♪彼が見つけてくれたのよ 忘れていた本当の私
♪彼が見せてくれたのよ 出会った事の無い広い世界を
♪今心の音楽奏でる だって彼を愛しているから

「分りました。先生、お気を付けて、行ってらっしゃい。タクシー、呼んでますから。あとは、すべて僕に任せて・・・。」
「ありがとう、池畑君。」

先生が去った後、池畑は一人たたずんでいました。
「ラブラブ・・・か・・・。」
 

一つの想い

本番前の舞台裏。 みんな本番用の衣裳を付けて、そわそわしています。
「ああっ、本番まで、あと15分だー!」
「まあまあ、リョウコさんもみんなも落ち着いて。」
「ねぇ、誰か私の手袋知らない?さっきから見つからないんだってば!」
「ヒカルさん。足元よく見て!」
「あっあった!」
10分前のベルがなると、みんな緊張のあまり固まってしまいました。
「みんな!スタンバイよ!本番10分前。」
「だめ、だめよ!先生がリョウコに本番前おまじないしてくれるの。あれがないとだめ・・・。」
「あー、顔が引きつる!」
「足が凍っていく。」
「みんな!大丈夫よ!私がついてる!」
池畑はこぶしを振り上げました。
「マネージャー、男らしいわ!」
と言いながら、ノリカは池畑の腕にすがり付きました。
「やっやだ、私、女になりたかったのよ。」
団員から笑がもれて一瞬リラックスしたのですが、すぐに緊張が戻ってしまいます。
「リョウコさん・・・ヒカルさん・・・みんなどうしちゃったのよ!もうすぐ本番だと言うのに。」

そこへ、先生が帰って来ました。
「みんな!」
「先生!」
「よかった!間に合って。主人が今日一日だけ代ってくれたのよ。会社を休んで。」
先生はリョウコにおまじないをして上げました。
「池畑マネージャー。先生帰って来たのに、やけに冷静だね。」
「それぞれに形はちがっても、想いは一つ・・・。」
「さぁ、みんな。お客様たちに最高の笑顔を見せて上げてちょうだい。」
「はい!」
開演のベルが鳴りました。
会場にナレーションが流れます。
「皆様、大変お待たせしました。劇団ティンカーベル、10周年記念、ミューとゆかいな猫たち、どうぞ、最後までごゆっくりとご覧下さい。」
緞帳が上がりました。 さぁ、舞台の始まりです。